高円寺ハト物語、2015年夏

先日、高円寺の飲み屋で知り合った人から相談を持ち掛けられた。

 

「アパートのベランダにハトが巣をつくって困ってるんです」

 

なるほど、それは確かに困る。初対面の人にする相談ではないが、きっとそれくらい逼迫した悩みだったんだろう。聞けば彼女は引っ越しが決まっていて、翌週にはアパートを引き払わなくてはダメらしい。

しかし既にヒナも生まれてしまい、自分ひとりでは下手に巣を移動することもできない。かといって、このまま放置して退居すれば殺処分されてしまう可能性が高く、それはさすがに忍びない、というわけだ。

 

私の中の動物愛護精神が目を覚ますとともに、「これはデイリーポータルZのネタになるかもしれない」という思惑もちょっとあって、後日、ハトを救護すべく現場に向かった。

■あれ? なんか卵ある

ちなみに、ハトがベランダに巣を作ってしまうことは、さほど珍しい事例ではないらしい。

確かに、風雪を凌ぎ、外敵から卵やヒナを守るコンクリートの壁に覆われたベランダは、絶好の子育て環境に違いない。

 

その人の場合、なんか「クルックー」って聞こえるなーと思いベランダをのぞいた時には、すでにこんな状態だったという。

情報提供者の写メより
情報提供者の写メより
気づいた時にはすでに卵があったという。それも2つも
気づいた時にはすでに卵があったという。それも2つも

人間に気づかれないよう、せっせと巣づくりに励み卵を産み落としたハト。そんな『ダーウィンが来た!』みたいな感動物語がまさかベランダで展開されていたとは、家主もさぞ驚いたことだろう。


そのままどうすることもできず、わなわなと時を重ねるうち、ついに2羽のかわいいヒナが生まれてしまった。めでたい。けど、困った。で、冒頭の相談に至ったというわけだ。

■安全な場所に移動しよう

探偵ナイトスクープに依頼したら、たむらけんじが駆けつけそうな事案である。

たむけん程の問題解決能力は持ち合わせていないが、何とか力になりたい。


殺処分の運命が迫る哀れなハトを、少しでも安全な場所に移動させよう。


※ちなみに、前もって環境局の鳥獣保護担当にも相談してみたのだが、「お近くの茂みなどに移されてはいかがですか?」とのこと。巣立つまで我が家の部屋のベランダで保護することも考えたが、「ハトは色んな病気を持っているので、それはやめたほうがいいです」といわれてしまった。

ともあれ、問題のアパートへやってきた探偵
ともあれ、問題のアパートへやってきた探偵
依頼者。明らかに困った様子
依頼者。明らかに困った様子

彼女が依頼者のAさん。今回で会うのは2回目である。

ともあれ、さっそく現場を見せてもらう。

あそこです
あそこです
写メの時よりかなり成長していた2羽。ベランダの隅に身を寄せ合い、じっとしている。想像の5倍かわいい
写メの時よりかなり成長していた2羽。ベランダの隅に身を寄せ合い、じっとしている。想像の5倍かわいい

あれ、親は? Aさんに聞くと


「親は朝と夜はだいたいいるんですけど、今日はたまたま姿が見えなくて。そのうち戻ってくると思うんですけど…」とのこと。


なるほど、これは困ったぞ。


じつは、卵やヒナのいる巣を許可なく捕獲することは法律で禁じられているらしい。

だが、親も一緒に移動させる場合は、特に申請などは必要ないのだとか。つまり、親が戻ってこないことには、保護しようにも手が出せない。


まあ法律云々を抜きにしても、ヒナだけで野生に放つのはスパルタが過ぎる。

親ハトの帰還を待つしかないか。

ちなみに荷物はすでに新居に運び済み
ちなみに荷物はすでに新居に運び済み

ただ、ひとつ問題なのは、じつは本日がアパートの退居日であるということだ。

つまり、鍵を大家に返却するまでの残り数時間のうちに決着をつける必要がある。


本当はもっと早く何とかするべきだったのだが、この日しかスケジュールが合わなかったので仕方ない。

ハトと同じように、ヒトにはヒトの営みがある。

時間がないので、速やかに保護準備に入る
時間がないので、速やかに保護準備に入る

さて、四の五のいっている時間はない。いつ親ハトが戻ってきてもいいよう、保護の準備をしておこう。

今回は親とヒナの計3羽をダンボールで運び、安全な茂みなどにお引っ越しさせようと思う。

そこで、ハトの快適性を考慮し、ドンキホーテで一番大きなダンボールを買ってきた。


捕獲用の網もいちおう用意したが、手荒なマネはしたくない。できればハト自らダンボールに入ってきてほしい。

3種の豆をしかけ、ダンボールへおびき寄せる作戦
3種の豆をしかけ、ダンボールへおびき寄せる作戦

あまりハトの生態に明るくないため、豆でつるという古典的なアプローチしか思いつかなかった。


ともあれ、人事は尽くした。後は親ハトのかえりを待つのみである。

固唾を呑んで見守る依頼者
固唾を呑んで見守る依頼者

ちなみに申し遅れたが、この日は私と依頼者のほか、2名の協力者が同行している。

彼らも冒頭の飲みの場に同席していたメンバーだ。その日、私は先輩ライターの石原たきびさん(写真中央)と高円寺の飲み屋にいたのだが、2軒目からなぜか近くで飲んでいた地元の女子2名が合流し、1時間後にはハトの相談を持ち掛けられるまでの仲になった。高円寺という街ではそういうことがよく起こる。

また、もう1名(依頼者の友人)からは網で捕獲されるほどの仲になった
また、もう1名(依頼者の友人)からは網で捕獲されるほどの仲になった

待てども待てども、なかなか親ハトは戻ってこない。

そのうちヒマを持て余した依頼者の友人が、目の前のおじさん(筆者のことです)で遊びはじめた。

だが、イヤじゃない!
だが、イヤじゃない!

さて、そんなこんなでタイムリミットぎりぎりまで粘ったものの、ついに親は帰ってこなかった。

たいへん無念ではあるが、保護作戦は失敗である。


ただ、このまま見捨てるのはさすがに目覚めが悪い。なんとか救う手立てはないものか?

■巣立つまで見守れないか

ひとつ考えたのは、このアパートの契約をあと1カ月だけ延長し、ヒナが自ら巣立つまで見守ることだ。やじろべえが家賃を払い、Aさんに代わって私がこの家に住むことで、飛び立つまでの猶予をヒナに与えられる。

その顛末をデイリーポータルZで記事にすれば、1カ月分の家賃というコストをかけてもハトを見送る意義はあるという経営判断だ。経費が落ちるか心配ではあるが。


そこで、Aさんから管理会社を通じ、契約延長について大家さんに相談してもらうことにした。

もちろん人として、かわいいハトのピンチを見過ごせない気持ちもある。
もちろん人として、かわいいハトのピンチを見過ごせない気持ちもある。

しかし、残念ながら1カ月単位での契約延長は難しいとのこと。まあ、そうだろうなと思いつつも、融通のきかない日本の賃貸契約システムに憤りを感じてしまう。



というわけで、この日は結局そのままヒナと別れた。大げさに乗り込んだ割には、何の解決にもならずハトにもAさんにも申し訳ない気持ちでいっぱいである。



【後日談】

ただ、幸いなことに大家さんがとてもいい人で、Aさんが相談したところ「殺処分はせず、部屋のクリーニングもヒナが巣立つまで待つ」と約束してくれたそうです。めでたし、めでたし。



もしハトがみなさんのお家に巣をつくってしまった時は、管理会社に相談してみるのがいいと思います。


よかったね、ハト
よかったね、ハト



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